正中弓状靭帯圧迫症候群

監修:春田 英律(四谷メディカルキューブ 消化器外科)

病気のことについて、春田医師が動画で詳しく解説しています。
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正中弓状靭帯圧迫症候群とは


正中弓状靭帯圧迫症候群(せいちゅうきゅうじょうじんたいあっぱくしょうこうぐん)は、正中弓状靭帯により腹腔動脈が圧迫され、血流異常が生じる病気です。
正中弓状靭帯とは、胸部と腹部を隔てる横隔膜という筋肉が椎体前面で結合してできたもので、誰にでも存在しています。通常、この靭帯が問題となることはありませんが、稀に腹腔動脈を圧迫して腹腔動脈の血流障害や腹腔神経叢を圧迫して神経障害を引き起こすことがあります。息を吐くと正中靭帯が下方に引っ張られるため、腹腔動脈が圧迫されやすくなります。腹腔動脈が圧迫されると、上腹部の臓器の血流が乏しくなります。食事を摂った後には、上腹部の臓器には大量の血液が必要となるため、相対的に必要な血流量が不足し、腹痛が起こりやすくなります。
腹腔動脈は、胃・肝臓・脾臓・膵臓など上腹部の重要な臓器の血流を養っています。正中弓状靭帯圧迫症候群により腹腔動脈が圧迫されると、他の動脈を経由してこれらの臓器の血流を補う必要がでてきます。主には上腸間膜動脈から分岐する細い動脈を介して補われますが、元々細い血管に多くの血液が流入するため、血管が圧に耐えられず動脈瘤を形成することがあります。動脈瘤ができても全く症状がないため、気づかれないまま放置すると動脈瘤が破裂することがあります。また、症状がない・もしくは症状の軽い正中弓状靭帯圧迫症候群の方が約2.4~8.0%いるため、破裂してから正中弓状靭帯圧迫症候群が診断されることもあります。動脈瘤破裂例の死亡率は約17.5~33.3%と報告されており、動脈瘤が発見された場合には速やかに治療を行う必要があります。



特徴的な症状


・食事中に出現し、食後30分から3時間程度で軽快する鋭い腹痛が続いている。
・息を吐いたときに腹痛が強くなる。
・食事中の腹痛が原因で、嘔気・嘔吐、体重減少を認めている。
・機能性ディスペプシア(機能性胃腸症)と診断され、治療を受けているが、一向に改善しない。

ストレスの多い現代において比較的ありふれた疾患として「機能性ディスペプシア」もしくは「機能性胃腸症」という病気があります。「胃が痛い」、「胃がもたれる」という上腹部の不快な症状が続いているにもかかわらず、内視鏡などで調べても特に異常がないのが、この病気の特徴です。
機能性ディスペプシアは、内視鏡や画像、採血検査などで胃潰瘍・慢性胃炎などの胃痛の原因となる疾患を除外した後に診断されます。通常は胃炎に準じた治療や、胃の運動機能を改善したりする薬が処方されますが、症状の改善が得られない方も少なからずいらっしゃいます。
機能性ディスペプシアに似た慢性的な上腹部の不快感を示す疾患の中に、「正中弓状靭帯圧迫症候群」があります。正中弓状靭帯圧迫症候群の発症率は人口の0.4%程度と比較的まれな病気ですが、機能性ディスペプシアと診断され治療を受けたが症状が改善されない方の中に、本疾患の方が相当数いるのではないかと考えられています。

 

 

診断・検査


上部消化管内視鏡(胃カメラ)や腹部造影CT、腹部超音波で診断できます。

 

<上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)>
胃がん、胃潰瘍・十二指腸潰瘍などの、胃の症状を出しやすい重篤な病気を除外するため、内視鏡検査を実施します。

<腹部造影CT>
静脈より造影剤を注射して腹部CTを撮影します。3D血管構築をすることで、腹腔動脈の圧迫が確認できます。

<腹部超音波検査>
腹腔動脈の血流を測定します。吸気時と呼気時の流速に変化が認められ、ドップラー検査では呼気時に乱流が生じます。機能性ディスペプシアは他の疾患を除外することにより診断されますが、正中弓状靭帯圧迫症候群は検査により診断することができます。

 

 

 

 

治療法


腹腔鏡手術で正中弓状靭帯を切離します。
腹腔鏡手術は、通常5か所程度の小さな筒をお腹に入れて行います。腹腔鏡手術は、カメラを通して何倍にも視野を拡大して観察できるため、細かい血管の処理や靭帯の切離を行う本治療には非常に適していると考えられます。手術中に超音波検査を行い、靭帯切離前後の血流測定を行います。通常出血量はごく少量で、手術時間は2~3時間程度です。
適切な手術による症状の改善率は85%以上と報告されています。

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治療の流れ



1. 予約お申し込み
お電話にて外来の予約をお取りください。
予約番号:03-3261-0430(受付時間9時~17時/日・祝除く)


2. 外来(2~3回程度)
症状についてお伺いし、必要に応じて各種検査を行います。

<診察>
症状やこれまでの治療歴など、詳しい問診を行います。

<検査>
上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)や腹部造影CT、腹部超音波検査を行い、診断します。

<検査後の診察>
検査結果をもとに、治療方針を決定します。
手術を行う場合は、術前検査(心電図、胸腹部レントゲン、採血等)と麻酔科医師の診察を行います。


3. 手術
手術当日に入院していただきます。
通常、手術時間は約2~3時間程度で、2泊3日で退院となります。

 



手術費用



入院予定期間:3日間
3割負担概算金額:20~25万程度

※保険の負担割合は患者さまによって異なります。
※保険診療のため、高額療養費制度の対象となります



担当医師



春田英律(はるたひでのり)

<専門科目>
消化器外科/胆道外科/減量・糖尿病外科/内視鏡外科

<資格>
日本外科学会専門医・指導医
日本消化器内視鏡学会専門医・指導医
日本消化器外科学会専門医・指導医
日本消化器がん外科治療専門医
日本内視鏡外科学会 技術認定医(胆道)
日本食道学会 食道科認定医
日本静脈経腸栄養学会 認定医
日本がん治療認定医
日本内視鏡外科学会 縫合結紮講習会インストラクター
医学博士

<略歴>
北里大学医学部 卒業
結城病院 外科副部長
那須南病院 外科医長
地域医療機能推進機構うつのみや病院 外科部長
自治医科大学 消化器一般移植外科 講師

<所属学会等>
日本外科学会/日本消化器外科学会/日本内視鏡外科学会
日本消化器内視鏡学会/日本胃癌学会/日本食道学会
日本肥満症治療学会(評議員)/国際肥満代謝外科連盟(IFSO)
アジア太平洋肥満代謝外科学会(APMBSS)
日本静脈経腸栄養学会/Needlescopic surgery meeting(世話人)